測量士の試験を受けて

昨日(2020/11/23)、測量士の試験を受けました。どういう意味があったのか、自分の心の中での整理と備忘録を兼ねてを書いてみたいと思います。

測量士を受験しようと思うようになったのは、、、

身の上話

メーカーに勤務していた時ドローンに関係する研究開発でGPSを扱うようになり(まだ市街地で自由にドローンを飛ばせた時代)、その後、GPSの高精度測位に関する調査や研究開発をすることになりました。そこで調べていると、測量や測位航法学会にたどり着きました。研究開発は終了となっていますが、私自身は興味があり、GPS関係については観察を続けています。また、会社では私はグループ会社への出向となりコロナで仕事も減り(収入も減り)、時間ができたこともあり、資格を取ろうと思うようになりました。既に簿記3級を取ったので、次の目標を測量士を選びました。

何のため

(1) 知識習得 測量はドローンのサービスでも関係しており、これまで行っていたGPS高精度測位も 測量として使うときの方法、何となくソフトウェアを動かしているだけの写真測量、点群処理についても、現場とは違った角度から勉強したいと思い、

(2) 会社でエンジニアとして強くなる

会社で測量士の資格をもっていると「強く」なれるかも、と少し思いました。1%くらい強くなれるかもしれませんが、測量の会社ではないので役に立たないでしょう。

(3) 勉強している証拠 転職市場で価値があるか分かりませんが、これは少なくとも自分が勉強していることの証明になると思います。 これも意味があるか分かりませんが。

仕事との関係で学びたかったこと

  • GPSを用いた高精度測位は、昔と違い、いまは「トランジスタ技術」で毎年特集されるくらい、一般的な手法です。オープンソースRTKLIBとu-blox 社の受信機を用いれば、だれでもミリ精度の測位ができることは周知の事実です。一方で、測量業では、いろいろなノウハウの蓄積と実績があることを薄々は知っていましたが、その枠組みを知りたいと思っていました。

  • 写真測量。これはmetashape等、いくつかの有名ソフトを使えばドローンで撮った写真データから、オルソ画像、DEM、3次元点群モデルを作れることは知っていました。 しかし、それが測量での成果とは何が異なるのか、どう作られるのかは知りませんでした。これらについて学べたことには良かったです。

  • 一方で、リモートセンシングやGIS関係のプログラミング、農業や資源開発への応用についても興味がありましたが、出題は少なく勉強にはなりませんでした。

過去問の勉強を通して学んだこと

問題は、教育効果を考えて作られているものがある、と強く感じました。実務は(私は実務経験はありません)もっと複雑だと思いますが、 それでも、考え方の勉強になりました。余力があれば、問題と解説をかき

(1) 電子基準点を用いたGNSS測量の点検計算

午後の試験問題(2)の頻出問題のようでした。基線を足し合わせて電子基準点間の基線ベクトルと比較します。 比較するには、ECEF(earth-centered, earth fixed)の座標系のベクトルを局所(NED north-east-down)に変換する必要があります。 水平方向、鉛直方向の誤差が許容範囲内かを点検します。 プログラム実装は簡単ですが、重要なのだなと理解しました。

(2) 航空写真測量の飛行計画

午後の試験問題の頻出問題でした。カメラの性能(焦点距離、画素サイズ)があるとき、高度、隣接する写真の重複度、コース間の写真の重複度 との関係を計算します。写真の枚数、途中で標高が変わる場合、なども計算します。私にとっては「これらは実務でも同じことを計算しているのかな」と想像できる良いシミュレーションでした。

ただ、数値がドローンとは異なります。だいたい、対地高度は2000m程度、焦点距離(「画面距離」というようです)は18cmなど、 「高い!大きい!!」と感じる数字でした。ただ、ドローンにのせるデジカメでも基本的な考え方は同じなのではないかと思っています。

(3) DEMの作成

3次元点群データを作ることはできます。特徴点に3次元の座標値があり、その座標値を緯度経度標高にすれば良いので。 そこから格子点上の値で定義される表面データにどう作るのかですが、計算問題がありました。 TIN、最近隣法などの具体的な計算方法が出題されていましたが、計算手順を理解できました。

(4) DEMから災害予測

DEMの変化からその地域の標高の変化が分かります。その使い方として、おそらく実際に使われているのだと思いますが、災害時に流出した土砂、堤防が決壊により被災が予想される区域の 予測が問題でありました。なるほど。

(5) 測量はだれが行うのか

国土地理院が行う「基本測量」を除くと、他は「測量計画機関」が実施する「公共測量」があります。平たく言うと、「測量計画機関」は 国(国土交通省)や公共団体、地方自治体などのようで、基本的には税金で実行されるもののようです。 だれがどう受注しているのか、狭く障壁の高い世界なので存じませんが、閉じた雰囲気を感じました。

(6) LiDAR

AppleiPad ProやiPhon12Proに搭載されて土木の現場で3次元モデルが作れることが話題になりました。 航空レーザ測量も問題に出ています。今年も出ましたが、仕様(パルスレート、スキャンレート、スキャン角度)と飛行計画(対地高度、飛行速度) からどのような範囲や間隔で点を観察できるかを計算します。 基本的な計算ですが、こうやって計算できるのか、と納得しました。数値の感覚は私には無いので分かりませんが、今後ドローンでも普及していくのかなと思います。

勉強と試験対策について

不合格かもしれないので、自分の勉強について書くのは意味が無いかもしれませんが、メモとして。

まず、測量士は情報量は少ないですが、過去問は公開されているので、無料でダウンロードして解くことができます。 解答は日本測量協会から販売されているので、それを使って勉強しました。 また、試験範囲の知識の習得に便利な本は、同じく「受験テキスト」が販売されていますが、これで良いのかというと、十分ではないと思います。 まず、 読みにく、中途半端(枝葉末節)と思われる説明が多い、章立ての構成が考えられていない(継ぎ足してきたから?)、感じがしました。 辞書代わりになるかも微妙と思いました。 ただし、この本にある、午後の試験の予想問題は勉強になりました。

測量士補についてはテキストがあったので、購入して勉強に使いました。 測量学会のテキストに比べてポイントを絞っている感じはしますが、十分ではないでしょう。 一方で、YouTube は最後に見るようにしましたが、とても勉強になりました。 耳からの情報、回答者の考え方などとても参考になりました。 もし再度勉強する機会があれば、全部見たいと思います。 時間がかかるようで、これを見るのが効率的である気がします。

午後は4つの分野から2題を選択します。私は迷わず第2問「基準点測量(GNSS測量、TS測量)」、第3問「航空測量(写真、レーザ測量、3次元モデル)」に決め、残りのふたつについては全く見ていません。 これが有利なのか分かりませんが、勉強の観点からは満足しています。 また、点数を取るという意味では、午前の試験でしっかり点数を取ることが有利であると思います。 これは、試験後に落ち着いて考えた得た結論で、試験勉強中はそこまで気が回りませんでした。 午前:700点 (25点 x 28):選択問題 午後:700点 (300点、200点、200点):記述問題 で900点を取ることが要求されています。午前は分からない問題も多く、過去問でも20題くらいしか正解していません。 午後の配点や正解率は分かりませんが、控え目に1/4 くらいの正解とすると、 20*25 + 150 + 50 + 50 = 750 で足りません。午後の一生懸命計算して出す結果と午前の選択問題の25点としての割合を考えると、午後はコスパが悪い気がしました。 しかし、教育的配慮という意味では午後の問題は良いです。

その他とまとめ

まず、測量士はTACやLEC等の予備校でコースがありません。これは、お金にならない、役に立たない、要は需要が少ない資格であることが予測しています。 もちろん、私は測量は社会インフラの管理や設計のために不可欠で重要ですし、技術的な観点からも「常に新しい技術を取り入れて進化している」「きっちり計算できる」ところが好きです。 ただし、自動車、スマホ、インターネット、ゲームのような「お金がたくさん流れて、大きな会社がわさわさいる業界」ではない感じは否めません。 他の業界と同じく、興味があるだけで入っていける業界でないのも分かります。 興味はありますが、自分は「測量士」にはなれない、なるような流れが無い、なる必然性は無い、と感じています。

もし合格したらうれしいですが、勉強の機会として利用させていただき満足しています。 もう少し得た知識を整理したい気もしますが、時間が無い。 今日はここまで。 (2020/11/23)